ネガティブな感情との向き合い方〜なぜネガティブな感情は、脳から離れないのか〜

ネガティブな感情との出会い

その日、私は深いネガティブな感情の渦に飲み込まれていました。

住職という立場でありながら、自分の心をコントロールすることができない。

そんな自分が情けなく、さらに落ち込んでいく。まるで暗い穴の中を落ちていくような感覚でした。

「なぜ、このネガティブな感情は消えていかないのだろう?」

「なぜ、前向きになろうと思っても、すぐにネガティブな考えに戻ってしまうのだろう?」

坐禅とアファーメーション1での気づき

そんな問いを抱えたまま、私は静かに坐りました。呼吸を整え、自分の心の動きを観察します。

次々と湧き上がってくるネガティブな思考を感じながら。

そこで、ブッダの教えから作ったアファーメーション

「今ここに在る私は、自他と調和の中で成長し、十分である」

を頭で繰り返し唱えていました。

ただ黙って坐り続け、この言葉を静かに唱えているうちに、ある気づきが訪れました。

この感情も、実は自然な心の動きなのではないか。

抵抗するのではなく、あるがままに受け入れてみてはどうだろうか。

その気づきとともに、私は自分のネガティブな感情を、まるで川の流れを眺めるように観察し始めました。すると不思議なことに、少しずつその感情が自然と静まっていくのを感じたのです。

完全になくなったわけではありませんが、それに振り回されることが減っていきました。

ネガティビティバイアスの科学的発見

この体験から、私は「なぜ人はネガティブな感情に囚われやすいのか」という疑問を深く掘り下げてみることにしました。すると、興味深い事実が見えてきました。

私たち人間の脳は、良いことよりも悪いことの方に敏感に反応するようにできているのです。例えば、一日の中で9つの良いことがあっても、1つのネガティブな出来事があると、それだけを思い出して落ち込んでしまう。これは、誰もが経験することなのです。

このような傾向は、1998年にアメリカの心理学者ジョン・カシオッポ博士らの研究チームによって「ネガティビティバイアス(否定的偏向)」として科学的に確認されました。彼らの研究では、人が写真を見るときの脳の反応を測定し、ネガティブな写真に対する反応が、ポジティブなものや中立的なものと比べて、より強く、より早く現れることを発見したのです。

その後の研究でも、人間の脳は、ポジティブな情報よりもネガティブな情報に対して、より多くの処理時間を費やし、より強く記憶に残すことが分かってきました。例えば、批判的な一言は、10個の褒め言葉よりも強く心に残るといったことです。

脳の進化と生存本能

なぜそうなるのか。それは人類の長い歴史の中で培われた生存のための機能でした。私たちの先祖は、危険から身を守るために、悪いことや危険なことに素早く気づく必要があったのです。

その結果、脳はネガティブな情報を優先的に処理するよう進化したのでした。

現代社会における課題

しかし、現代社会ではこの傾向が逆に私たちを苦しめることがあります。

些細な失敗や批判に過度に反応し、ネガティブな考えが頭から離れなくなってしまう。

特に経営者の方々は、「失敗したらどうしよう」という不安から、新しいことに踏み出せなくなることもあるでしょう。

実践的な向き合い方

では、このネガティブな考えと、どのように向き合えばよいのでしょうか。

私の経験から言えば、坐禅とアファーメーションは効果的な方法の一つです。

静かに坐り、自分の心の動きを観察する。感情を無理に押し殺すのではなく、ただ観察する。

そして、ブッダの言葉に込められた智慧を、静かに心に染み込ませる。

すると不思議なことに、波立っていた心が自然と静まっていくのを感じられるようになります。

日常生活での実践

日々の生活の中でも、できることがあります。

例えば、毎日寝る前に、その日あった良いことを3つ思い出してみる。

「おいしい食事ができた」「誰かに親切にしてもらった」「仕事がうまくいった」など、些細なことで構いません。

普段見過ごしがちな幸せに目を向けることで、心のバランスを取ることができるのです。

新しい気づきへの招待

私自身、あの深いネガティブな感情との出会いがなければ、このような気づきは得られませんでした。今では、あの経験に感謝しています。

もし今、あなたもネガティブな感情に囚われているなら、それは決して特別なことではないと知ってください。それは、人間として自然な反応なのです。

まずは10分の椅子坐禅、そして、ブッダの短い言葉(アファーメーション)を実践してみましょう。

ただ静かに坐って、その感情を観察することから始めてみませんか。

きっと、新しい気づきが訪れるはずです。

明日も、静かに坐る時間を持ちます。

  1. 肯定的な言葉で自分自身に宣言をして、なりたい自分を引き寄せるマインドセットです。
    心理学用語では「自己成就的実現」とも呼ばれ、多くの成功者が活用しています。 ↩︎

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