怒りと坐禅の不思議な関係 〜心を整える科学〜

2025/04/06

みなさん、こんにちは。龍門院常楽寺の南泉です。

友だちとケンカしたとき、思い通りにならなくてイライラしたとき、誰かに無視されたとき…。
「怒り」の感情は、誰にでもあるものです。

でも、この怒りが長く続くと、心も体も疲れてしまいますね。
怒りは自然な感情ですが、上手に付き合わないと、自分も周りの人も傷つけてしまうことがあります。

今日は、怒りの正体と、それをやわらげる方法について、お話ししましょう。

怒りの正体はどこから来るの?

「ムカッ」としたとき、私たちの脳の中では何が起きているのでしょうか?

脳科学の研究によると、脳の中に「扁桃体(へんとうたい)」という部分があり、ここが怒りの感情を作り出しています。
扁桃体は小さなアーモンドのような形をした部分で、危険を感じたときに「警報装置」のように働きます。

例えば、

  • 友だちに無視されたとき
  • テストで思うような点数が取れなかったとき
  • 家族に叱られたとき
  • 大切にしていたものを壊されたとき
  • 自分の考えを理解してもらえなかったとき

こんなときに「危険だ!」と判断して、体と心に「怒り」の反応を起こすのです。
この反応は、とても速く、私たちが考える前に起こることが多いのです。

怒りが起きたときの体の変化

怒りを感じると、体にもいろいろな変化が起こります。

  • 心臓の鼓動が早くなる
  • 呼吸が浅くなる
  • 顔が赤くなる
  • 筋肉が緊張する
  • 手が震えることもある

これは、昔から人間が持っている「危険から身を守るための反応」です。

昔の人は、野生動物などの危険から逃げたり、戦ったりするために、この反応が必要でした。
でも現代では、本当に命の危険がなくても、この反応が起きてしまうことがあります。

怒りと仏教の三毒について

仏教では2500年以上も前から、人間の苦しみの原因として「三毒(さんどく)」という考え方がありました。

  • 「貪(とん)」: 欲しがること、執着すること
  • 「瞋(じん)」: 怒ること、憎むこと
  • 「痴(ち)」:物事の本当の姿が分からないこと

特に「瞋(じん)」、つまり怒りは、私たちを苦しめる強い力を持っています。

怒りが心の中にあると、まるで曇りガラスを通して世界を見ているようなもの。
すべてがゆがんで見えてしまいます。

たとえば、友だちが約束の時間に遅れてきたとき。
怒りがあると「私のことを大切に思っていない」と考えてしまいます。
でも実際は、電車が遅れただけかもしれません。

怒りは、私たちの考え方をゆがめてしまうのです。

怒りとストレスの悪循環

怒りが続くと、体にも影響が出てきます。

  • 心臓がドキドキする
  • 体が緊張する
  • 頭が痛くなる
  • 眠れなくなる
  • 食欲が変わる(食べ過ぎたり、食べなくなったり)
  • 集中力が落ちる

これらはすべて「ストレス」のサインです。
怒りはストレスを生み出し、そのストレスがさらに怒りを強くするという、悪い循環を作ってしまうのです。

長い間ストレスが続くと、体の健康にも悪い影響が出ます。
だからこそ、怒りと上手に付き合う方法を知ることが大切なのです。

怒りを和らげる坐禅の効果

では、どうすれば怒りをやわらげることができるのでしょうか?

その方法のひとつが「坐禅」です。

坐禅とは、静かに座って呼吸に集中する昔からの方法です。
科学的な研究によると、坐禅を続けることで次のような変化が起きることが分かっています。

  1. 扁桃体(怒りの中心)の働きが穏やかになる
  2. 脳の前の部分(理性を司る場所)が強くなる
  3. 自分の感情を落ち着いて見られるようになる

坐禅を続けると、怒りの感情が生まれても、
「あ、今、怒りが起きているな」 と冷静に気づけるようになります。
怒りに飲み込まれず、少し離れたところから見られるようになるのです。

実際に坐禅を学ぶためには、お寺や禅センターなどで教えてもらうのが良いでしょう。
でも、基本的な坐り方は次のようなものです。

  1. 背筋を伸ばして座る(イスでも構いません)
  2. 目は半分開けて、前方の床を見る
  3. 手は「法界定印」(手のひらを上にして、左手の上に右手を置き、親指の先を軽く触れ合わせる)
  4. 呼吸に意識を向ける
  5. 考えが浮かんでも、それにとらわれず、また呼吸に戻る

怒りをやわらげる日常の方法

坐禅は少し難しく感じるかもしれませんが、毎日の生活の中でもできる簡単な方法があります。

  1. 深い呼吸を3回する
    怒りを感じたら、まず大きく息を吸って、ゆっくり吐きます。
    これだけでも心が少し落ち着きます。
  2. 怒りに名前をつける
    「今、怒りを感じているな」と自分に言い聞かせます。これを「ラベリング」といいます。
    感情に名前をつけると、その感情に振り回されにくくなります。
  3. 怒りと自分を分ける
    「私の中に怒りという感情がある」と考えます。
    「私は怒りである」ではなく、「私の中に怒りがある」と考えると、怒りをコントロールしやすくなります。
  4. 怒りの先にある優しさを思い出す
    自分にも相手にも、思いやりの気持ちを向けます。
    「相手にも事情があるかもしれない」「自分も完璧ではない」と考えると、心が軽くなります。
  5. 怒りを感じたら場所を離れる
    可能なら、その場から少し離れて、落ち着いてから対応します。
    「ちょっとトイレに行ってくる」など、短い時間でも効果があります。

これらの方法は、扁桃体の反応をやわらげ、怒りをコントロールする力を育てます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、続けるうちに少しずつ上手になっていきます。

怒りの心を認めることから始めよう

最後に、大切なことをお伝えします。
人は誰でも、ときどき物事を正しく見られないことがあります。
それは当たり前のことなのです。

完璧になろうとするのではなく、「今の自分には、こんな曇りがあるな」と認めることが大切です。
それが「ゆるす」の第一歩です。

自分自身の怒りを責めるのではなく、「ああ、怒りが出てきたな」と優しく認めてあげましょう。

怒りを感じること自体は悪いことではありません。
大切なのは、その怒りにどう対応するかです。

脳科学を知り、坐禅などの実践を続けることで、少しずつ怒りをやわらげ、心の平和に近づいていきましょう。

今日のお話が、みなさんの心の整理のお役に立てば嬉しいです。

合掌

お問い合わせ CONTACT

ご祈祷/ご供養のお申込 RESERVATION

youtube